API はますます強力になりつつあります。それと同時に、NCE (New Chemical Entities: 新規化合物) の50%以上が強力 (OEL <10 μg/m3) であると分類されています。 また、世界中の安全衛生に関する行政機関は、こうした物質を取り扱うオペレータの保護に一層焦点を当てています。 さらに、さまざまなハードウェア機器のサプライヤによって膨大な種類の封じ込めソリューションが開発されており、経験者にとっても最適なソリューションを選択することが難しくなっています。 必要な封じ込めレベルを定義する要因を調べ、考えられるハードウェアソリューションについて検討する前に、封じ込めに関するいくつかの基本的な考え方を把握しておく必要があります。
「雇用主の第一の義務は従業員の健康を守ることです」 国ごとに規則の状況が異なっていても、このような表現 (英国 COSHH 規則より抜粋) は、強力な物質を取り扱うときの一般的な指針として登場します。 実際、欧米諸国の全人口の約 30 % が一生のうちに何らか形で癌を発症します。 癌を発症した人が製薬会社で働いていたときに発癌性物質にさらされていた場合、その会社に対して法的賠償請求が行われる可能性があります。 その結果、高額な賠償金が発生し、会社のイメージダウンも免れません。このような事態を避けるには、会社は最高の技術で従業員を保護していたことを証明できなければなりません。 英国の COSHH 規則には、対応策の明確な階層が示されています。
他の多くの国では、このような階層を義務付ける法令はありません。 欧米諸国のほとんどは、輸出国のオペレータの労働環境を監視します。これは、世界の他の地域の健康と安全を脅かす仕事を支援するのは、極めて非倫理的に思えるためです。
PPE を最終手段 (保全のため、必要に応じて使用しますが、予定外の相互作用や階層でさらに上位の他の方法を考慮してもうまくいかない場合) としてのみ使用すべきであるという点においては特に、この優先順位には妥当な理由があります。 なぜでしょうか。 まず、PPE の保護対象はオペレータのみです。 有害物質を封じ込めないと、フィルタの交換、室内および機械装置の清掃 (内部と外部) などの関連する問題が増大し、大きな封じ込めの問題に発展します。
また、使用する PPE システムによっては保護レベルに限界があります。 フィルタシステムを介して室内から空気を取り込むシステムでは、最適なフィルタ (EN 149 に準じた P3) により NPF (Nominal Protection Factors: 公称保護係数) の 30 を実現します。 つまり、室内の粉じん濃度が 3 mg/m3 (開放型の生産では一般的) の場合、システム内の濃度は最適な状態でも 100 μg/m3 です。 さらに、粉じん負荷が高いためフィルタ要素の寿命には限界があります。 給気システムを使用する場合、状況は異なります。 これらのシステムでは高い保護レベルが提供されますが、いくつかの懸念事項があります。 システムの性能はオペレータに大きく依存しており、ほとんどの国ではオペレータの健康 (生命に関わる場合でさえも) の責任をオペレータ自身に委ねることは受け入れられません。 エアスーツ内部の作業条件は、温度と湿気が高くて視界が悪く、動きに制限があるため、快適なものではありません。 このため、オペレータの効率レベルは低く、頻繁に休憩を取る必要があることから、さらに効率性が低下します。
多数のシステムが必要であること、スーツやフィルタの寿命に限界があること、清浄空気供給にかかる費用、追加の充填と貯蔵領域の要件といった、システムに関連する目に見えない費用に留意することも重要です。 これらの領域はシステムの性能にとって最も重要になります。 汚染された領域で作業するとスーツの外部が API で汚染されます。 この汚染は除去する必要があり、空気または湿式シャワーのいずれかで行えます。 どちらの方法を選択しても残留物は、特にホルモン製品や腫瘍製品などの非常に強力な物質の場合、極めて深刻です。
エアスーツの有効性を理解する必要があります。 エアスーツを使用すれば完全に保護されるという誤った認識が一般的にありますが、実際は、典型的な NPF および APF (Applied Protection Factors: 適用される保護係数) は表 I に示すとおりです。API は日常的な作業の現況を表します。 上記と同じ例を使用すると、室内の粉じん濃度が 3 mg/m3 の場合、完全給気式スーツを着用したオペレータの暴露レベルは最大でも 15 μg/m3 です。
装置 | NPF | APF |
給気式スーツ | 10,000 | 200 |
給気式ハーフスーツ | 2,000 | 100 |
給気式フード | 2,000 | 40 |
フィルタエアフード | 500 | 40 |
製造プロセス中の大部分では、API は機械または容器の内部にあり、ほぼ密閉されています。 材料が環境中に漏れ出てしまう主なリスクが発生するのは、これらの機器同士を接続または接続解除する必要があるとき、サンプルの採取が必要なとき、生産作業の終了時の機器を洗浄する必要があるときです。 オペレータの健康へのリスクを考慮する前に、相互汚染のリスクについて考える必要があります。 最適な設計が施された多種製品施設であっても、相互汚染は発生します。 重要な問題は、どの程度の相互汚染であれば許容でき、どうすれば実際の相互汚染レベルが許容値を常に下回るよう維持できるのかという点です。
許容可能な相互汚染は取り扱う製品の有効性によって主に左右されます。 許容レベルの最も一般的な定義によると、製品 2 の 1 日の最大分量において、製品 1 の活性成分の最低分量の 1/1000 が発見されるまでが許容限度です。 パラセタモール錠剤 (1 日の最大分量 4000 mg) を一般的な経口避妊剤 (1 日の最大分量として 0.02 mg) と比較すると、ケース 2 における相互汚染の許容レベルはケース 1 と 200,000 倍異なることが確認できます。 多種製品設備で相互汚染のレベルを下げる一般的な方法には、生産室の分離、エアロック、圧力カスケードの使用などがあります。 このような方法は、重要性の低い製品には適していますが、極めて有効性の強い物質を扱うときは、厳密な封じ込め以外にオペレータの健康と製品の両方を保護する方法はありません。
理想的には、有害な物質について、分子レベルでもオペレータをさらすべきではありませんが、現実的に不可能です。 封じ込めがどの程度必要で、どのような方法が最適なのかは、3 つの要因、つまり API の性質 (特に取り扱う API の有効性は極めて重要)、実行される工程の種類、オペレータの作業環境によって決まります。
ほとんどの場合、物質の有効性は OEL (Occupational Exposure Limit: 職業暴露限界値) または ADE (Acceptable Daily Exposure: 1 日曝露許容量) で特徴付けられます。 ADE は、健康への悪影響を及ぼさずにオペレータが吸収できる、特定の薬物の絶対量を示します。 OEL はオペレータの健康にマイナスの影響を及ぼさずに生産室の大気中で許容できる薬物の最大濃度を示します。 既知の物質の値は、『ISBN 07176 2083 2 EH40/2002 OEL 2002』や『ISBN 07176 2172 3 EH 40/2002 Supplements 2003』などのテキストに掲載してあります。 これらのテキストでは、パラセタモールの OEL は 10 mg/m3、エチニルエストラジオールの OEL は 35 ng/m3 とされています。 これらの値が特定の前提事項に基づいていることを理解することは重要です。 また、毒性学的データが追加された後は特に、物質のライフサイクルの途中で値が変動する可能性があります。 物質の OEL をこうした資料から確認できない場合は、数学的に求めることができます。
さらに、すべての強力な物質を 1 (弱い) から 5 (最も強い) の間で分類する簡単なカテゴリー化システムで薬物の有効性を示す方法が一般的に使われます。 これにより、生産装置をクラス X 化合物の生産に適したものとして分類でき、物質の有効性がオペレータに簡単に明示されます。 ただし、このシンプルなカテゴリー化システムを検討する場合、完全な汎用性があるわけではないことと、ほとんどすべての会社に独自の分類システムがあるという 2 点を考慮する必要があります。 また、添加剤による API の希釈量については考慮されていません。 「クラス 3 API」の含有量が 80 % の混合物の取り扱いには、「クラス 5 API」の含有量が 5 % の混合物の取り扱いよりも高い封じ込めレベルが要求されます。
したがって、すべてのクラス X の化合物の生産に適した生産ラインの概念が問われることになります。 これは、希釈を考慮せず (極めて強力な物質を扱う場合は特に、取り扱う物質がすべて純粋な API とは限らず、混合物の大きな割合を添加物が占めている場合が多い)、実際の運転回数またはオペレータが常に現場にいるわけではないといった現況が過度に単純化されています。
この分野が専門ではないサプライヤは、「3 μg/m3」や「1μg 以上」、もっとひどい例では「OEL 2 μg/m3」などといった文言を「封じ込め装置」の宣伝に使おうとする場合がよくあります。 こうした宣伝文句はすべて抽出ブースや封じ込めバルブなどの装置の封じ込め性能を表すことを意図しています。 最後の宣伝文句は明らかに誤っていますが (OEL は製品関連の番号)、他の宣伝文句はテスト条件が定義されていないという問題があります。 これにより、多岐にわたるテスト素材、サンプラ、サンプラの位置または分析手順を使用して得られる数値を比較するのが極めて困難になります。
スプリットバルブ技術を発明した後、GEA は (ISPE 傘下で) 医薬品会社、エンジニアリング企業、封じ込め装置のサプライヤで構成された専門家による作業部会を結成しました。 この作業部会は前述のバリエーションがすべて定義されたガイドラインを策定しました。 一般に認められている試験手順では定義済みのグレードの乳糖 (他の物質も可能) を使用し、定義済みの環境 (湿度、温度、換気の回数) に装置を配置するとともに、定義済みのサンプラを正確な位置に取り付けています。 この試験には、対象とする作業の実行と 15 分間の大気の採取 (サンプラのフィルタを介して) が伴います。 フィルタを分析すると、一定量の大気中に多量の乳糖が採取されているのがわかりますが、これがこの装置の封じ込め性能です。 平均 15 分間で行うこの性能は、STTWA (Short Term Time Weighted Average: 短時間荷重平均) と呼ばれます。
漏れ出た粉末の総量が測定されることに注意してください。 強力な API を取り扱う場合、ごく一部の粉末混合物のみが活性成分であり、それ以外が添加物です。 LTTWA (Long Term Weighted Average: 長時間荷重平均) は 1 回のシフトが 8 時間の場合など、より長時間に渡る封じ込めの性能として定義されます。 原材料の入ったコンテナを流動床にドッキングする際に生じるような断続的な暴露 (左側) があるのか、たとえば完全には安全でない打錠機による恒久的な暴露 (右側) があるのかを見極めることは重要です。
オペレータの暴露を示す上で最も重要な数値は ROI (Real Operator Intake: 実際のオペレータ摂取量) と RDI (Real Daily Intake: 実際の 1 日摂取量) です。 これらの数値は、特定の期間、特定の空気中の薬物濃度の領域に居たオペレータの体内に入る API の量を示します。 オペレータの呼吸速度と室内の粉じん濃度がわかれば、薬物の摂取量を計算できます。
実際の RDI が薬物に固有の ADE より低い場合、問題はありません。 RDI が ADE を超えると、状況を改善する対策を講じる必要があります。 当社の例で最も効果的に造粒機をアップグレードする方法は、優れた封じ込め性能をもつロードおよびアンロードシステムを組み込むことです。
このような視覚化は、説明目的でのみ行っています。 当然ながら、実際の状況では、詳細なリスク分析を実施して既存の設置の封じ込め性能を判断し、適切な装置を選択して既存の設備または新しい設備の設計をアップグレードする必要があります。 GEA は、封じ込めによる物質移送の最も多様なハードウェアソリューションを提供する一方、封じ込めリスク分析に基づく最適なハードウェアソリューションの特定についても類まれな経験と実績があります。
ISPE ガイダンス