スイスのヴィラール・シュル・グラヌにあるCremoの製造拠点。写真:STEMUTZ PHOTO
Valfoo創設者のクレイル兄弟、ダニエルとオリバーは、2019年、世界展開していた既存の乳製品事業の好調を受け、製品ラインナップを拡充する中で、高付加価値乳タンパクラクトフェリンの噴霧乾燥粉末の製造に注力することを決めました。ダニエルとオリバーはGEAと連携を決め、さらに実績のある乳製品メーカーCremoをチームに加えて、商用プロセスの開発および微調整に取り組みます。その目的は、ヴィラール・シュル・グラヌにあるCremoの拠点に噴霧乾燥ラクトフェリンの製造設備を建設することでした。
そして、2021年、スイスで初めて噴霧乾燥技術を用いたラクトフェリン粉末製造産業プロセスの構築に成功し、ラクトフェリンプロジェクトを成功裏に収めました。このプラントは現在もCremoの拠点でフル稼働しており、1日あたり約65 kgのラクトフェリン粉末が製造されています。製造された粉末は、幼児・成人向け栄養粉末や健康補助食品の世界中の製造業者に、Valfooによって販売されています。
Valfoo創設者クレイル兄弟の一人オリバー・クレイル氏(左)、Cremoプラントマネージャーのエドガー・ファーゼル氏と。写真:STEMUTZ PHOTO
Valfoo、Cremo、GEAはそれぞれが、噴霧乾燥ラクトフェリンプロジェクトに共同で取り組むのに理想的なポジションにありました。スイス第2の牛乳加工会社であり、800人以上の従業員を擁するCremo社は、高度な乳清タンパク質粉末や乳タンパク質粉末の製造を含め、乳製品製造業に関するあらゆるノウハウを持っています。さらに、CremoはGEAとは50年近くにわたって独立した関係性を築いており、それを通じて両者とも主要な技術的マイルストーンを数多く達成してきました。例えば、2005年にGEAの統合フィルター乾燥機 (IFD) を設置した最初の企業がCremoでした。また、Cremoは最新式のGEA Cyclone Extra Efficiency(高効率サイクロン、CEE)技術を導入したヨーロッパで最初の企業でもありました。
噴霧乾燥ラクトフェリンの堅牢な製造プロセスの開発に成功したことは重要な成果であったと、パートナー企業は認めています。「ラクトフェリン粉末製造の噴霧乾燥プロセスを構築することは野心的なプロジェクトであり、大胆な試みでした」とダニエルはコメントしました。「乳清タンパク質のラクトフェリンは非常に熱に弱いため、これまでは噴霧乾燥より低温である一方でコストがかかる凍結乾燥技術がラクトフェリン粉末の製造に使われてきました。」
Valfoo、GEA、Cremoの3社は自ら難題に挑み、明確に定義された物理化学的性質を持つ高純度のラクトフェリン粉末を、凍結乾燥より効果的に製造できる噴霧乾燥プロセスの考案、テスト、微調整に取り組みました。
その後3社は、液体乳からラクトフェリンを抽出する工程から噴霧乾燥工程まで、タンパク質を変性させる可能性のある過度の熱に製品をさらさすことなく、製品ロスを最小限に抑えて高い効率を発揮するプロセスライン全体の開発に挑みました。
Cremoの拠点で製造された噴霧乾燥ラクトフェリン粉末。写真:STEMUTZ PHOTO
- ダニエル・クレイル、Valfooの創設者の一人
「私たちはCremoと一緒に、牛乳から液体ラクトフェリンを分解精製するための湿式ラインを設置しました。その後、最初のテストを行うために、ラクトフェリンを入れた牛乳瓶を数本持ってコペンハーゲンにあるGEAのテスト拠点に赴きました。」ダニエルは言います。「コペンハーゲンのテスト拠点では、GEAチームと協力して噴霧乾燥プラントのセットアップを行いました。例えば、噴霧乾燥ノズルなどの機器の調整をしたり、入口温度や出口温度などのプロセスパラメータを設定したりしました。」オリバーが続けます。「私たちが使える純粋なラクトフェリンの量は比較的少量であったので、達成できたことは大きな成果でした。」
このプロジェクトの成功のカギを握っていたのは、乾燥機の大きさでした。最適な大きさの乾燥機を使用することで、ラクトフェリンが過度の熱にさらされるのを防ぐことができたのです。また、乾燥機の大きさを調整することで、小型の機器で発生しやすい粉末の高温表面との接触も最小限に抑えることができました。
以前は噴霧乾燥技術で発生する熱がラクトフェリンタンパク質を破壊するのではないかと考えられていましたが、ダニエルは次のように指摘しています。「実のところ、GEAの噴霧乾燥機ではそのような問題はありません。注目すべきタンパク質変性は認められていません。」
Cremoでの噴霧乾燥プロセスの検査。写真:STEMUTZ PHOTO
GEA、Valfoo、Cremoによって開発された噴霧乾燥プロセスは、単段式GEA VSD®噴霧乾燥機サイズ12.5内で実行されます。この噴霧乾燥機は乾燥時間が短く、GEA CEEサイクロンを採用することで高生産性が得られる設計となっています。この新型ラクトフェリン噴霧乾燥機はCremoの他の噴霧乾燥機より小型ですが、同じ機能が備わっており、産業用食品加工プラントに求められる要件を満たしています。
「現在私たちが使用している噴霧乾燥機は、本当に製品に最適なサイズですが、乾燥機から出てくる粉末の落下高さ、圧力、ノズルの設計、入口と出口の熱など、機能に応じた最適化も行っています。 」ダニエルは言及します。「これらのパラメータを微調整することで、再現性のある処理を確実に行い、必要な噴霧乾燥効果を正確に得ることができるため、高度に定義された粒度分布や性質を実現するのに役立ちます。」
2020年にはエンドツーエンドプロセスのセットアップが完了し、牛乳の処理から噴霧乾燥ラクトフェリン粉末の包装までがCremoの設備で行われるようになりましたが、その後もValfooは引き続きプロセス全体の追加テストと微調整を行いました。噴霧乾燥機がCremoに設置された後は、CremoとGEAの専門スタッフが現場でプロセスの定義を行うことになりました。2022年春以降、このプラントは正常に稼働を続け、現在では年間1万キログラムのラクトフェリンが製造されています。今後、製造量は2万5千キログラムまで増加する見込みです。「重要なことは、GEAの噴霧乾燥プラントによって、成長と拡張の見通しが十分に得られたことです」とオリバーは述べています。
「噴霧乾燥技術を用いた高純度機能性ラクトフェリンの製造を可能にする製造プロセスを開発できるかどうかは、提携しているCremo、Valfoo、GEAの3社の業界、プロセス、製品、エンジニアリングのノウハウといった要素の掛け合わせにかかっていました。」とCremoのエドガー・ファーゼル氏が述べています。
Valfoo共同創設者オリバー・クレイル氏(左)とCremo噴霧乾燥施設のプラントマネージャーのエドガー・ファーゼル氏。写真:STEMUTZ PHOTO
- エドガー・ファーゼル、Cremoのプラントマネージャー
噴霧乾燥は凍結乾燥より、ラクトフェリン粉末の製造に関して言えば、コスト面以外にも大きなメリットがいくつかあります。凍結乾燥プロセスと比較して、噴霧乾燥では粉末の粒度をより正確に、安定して管理できます。そのため、粒度分布を正確に定義することができ、水に溶けやすい粉末製品を製造することができます。この機能は乳児用調製粉乳にとって重要です。また、噴霧乾燥ラクトフェリン粉末は赤みがかった凍結乾燥ラクトフェリンよりも色が薄いため、タンパク質を含むどの粉末製品にも外観上適しています。
さらに、噴霧乾燥調剤には、凍結乾燥ラクトフェリンよりも、粉末を圧縮して錠剤にしたりカプセル剤に入れたりしやすいという特性があります。噴霧乾燥ラクトフェリンを錠剤にする際には、セルロースや二酸化ケイ素、あるいはその他の賦形剤が少量しか必要ないため、その分1錠あたりのタンパク質含有量を増やすことがことができ、栄養補助食品分野向けにより高い品質の製品を製造できます。
「長期パートナーであるCremo SAとValfoo AGと共にこの重要なプロジェクトの目標を達成できたことは、素晴らしいチームワークの模範的な例となりました」と、GEAの乳製品アプリケーションナレッジマネージャーであるジョニー・ボンケ 氏は述べています。「GEAテスト施設での最初のテスト段階から全3社が密接に協力しました。最初はパイロットスケールでプラントのセットアップ条件と動作条件を確認し、その後で商用プラントのすべてのテスト結果を確認しました。私たちGEAは、今後もValfooとCremoに継続的なサポートを提供し、私たちの実績のある技術を使用してスイス産ラクトフェリンの製造を拡大していきたいと思います。」
Valfoo共同創設者オリバー・クレイル氏(左)とCremoプラントマネージャーのエドガー・ファーゼル氏。写真:STEMUTZ PHOTO