13 Nov 2023
月曜日の朝8時。GEA のエンジニアであるフェリックス・オルトロフ博士と彼のチームは、すでにモニターに表示される図表や数字に夢中になっていました。そこに表示されているのは、現在1日あたり約1,000トンのCO2を排出しているセメント工場のリアルタイムデータ。単にデータを解釈するだけでなく、状況を根本的に変え、地球温暖化の緩和に貢献したいと考えているのです。山でハイキングやスキーをしながら育ったオルトロフ氏は、気候変動が愛するアルプスに与える影響をリアルタイムで目の当たりにしてきました。それがきっかけとなって化学工学を専攻し、より良い持続可能な方法の発見に職業人生を捧げる原動力にもなっているとのことです。オルトロフ氏は GEA 炭素回収ソリューションのシニアディレクターとして、セメント工場やその他の重工業が大気中に放出するCO2の量を削減するために支援を行っています。
炭素回収技術は、石油・ガス産業では何十年も前から使用されているものの、セメント、鉄鋼、ガラス、化学業界など、今日大量にCO2を排出している企業にとっては、まだかなり新しい分野です。「このような排出削減が困難なセクターの企業は、排出源からCO2を除去する以外に選択肢がなくなってきていますが、これは新技術への大きな投資も意味します」とオルトロフ氏。「これをコスト効率よく行うには、特定のプラント構成に合わせたソリューションでありながら、設置や使用が容易な標準化されたソリューションが必要です」と言葉を続けます。
同氏はこうした課題を障害というより、GEA の強みを発揮できる機会と捉えています。「当社のアプローチは、お客様の不確実性を排除することにあります。炭素回収プラントそのものに加え、ガス洗浄、熱回収、回収したCO2の再利用といった GEA の専門知識により、目的に適合した費用対効果の高い、エンド・ツー・エンドのCO2排出量削減ポートフォリオを構築することが可能になりました」
GEA のアプローチは、大量にCO2を排出する企業が炭素回収を迅速に開始できるように設計された実用的なものです。「当社のパイロットプラントでは、規模を拡大すれば90%のCO2除去が可能であると証明されていますが、ほとんどの企業にとってそのような大規模な除去は現実的ではないことも承知しています。当社のモジュール設計アプローチにより、お客様は段階的な炭素回収アプローチを取ることができます。利用可能なオフヒートを利用してセメント工場で20%のCO2除去を達成することができれば、それは大きな進歩であり、次のステップで生産能力を拡大するためにより強力な立場に立つことができます」とのことです。
- GEA 炭素回収ソリューション・シニアディレクター、フェリックス・オルトロフ
Felix Ortloff
Senior Director, Carbon Capture Solutions, GEA
オルトロフ氏は、影響力の大きい産業をより持続可能なものにする機器の設計に携わっている GEA に多数存在する専門家の一人にすぎません。専門家全員が一体となって、現代における最も重大な問題に取り組んでいますが、同時に、真の進歩はお客様にとってビジネスとして理にかなったソリューションに左右されることも理解しています。そこで、今日の要件を満たしながら将来のニーズにも対応できるソリューションを提供することで、経済的にも実行可能な気候変動対策を実現しています。標準化とカスタマイズソリューションのバランスをとりながら、顧客のリードに従いつつ、新たな可能性を切り開いていくのです。長年のエンジニアリングにまつわるノウハウを活用する一方で、最新のテクノロジーでも新境地を切り開いています。大きく見出しを飾ることはないかもしれませんが、基礎となる大切な仕事です。あらゆるデータポイントを分析し、あらゆるパラメーターを調整し、あらゆるプロセスを最適化したり覆すことで、彼のような専門家によってビジネスと持続可能性が表裏一体となった未来への土台が築かれているのです。
イザベル・オスタロス氏は GEA の加熱・冷凍技術部門でシニアディレクターを務めています。エンジニアである彼女は、気候変動対策なくして経済と社会は成り立たないという結論を出しました。「産業プロセスの効率化と廃棄物の削減は、私が自然に貢献できる分野だと思いました。それに GEA は気候変動に関連するリスクをお客様のチャンスに変える独自のポートフォリオを持っています」と同氏は説明します。現在、彼女は持続可能なエンジニアリングソリューションを開発するチームを率いており、メンバーとともに食品、飲料、酪農セクターの企業がエネルギー消費を大幅に削減できるよう支援しています。「加熱と冷却は、工場全体におけるエネルギー消費の50~90%を占めています。幸いなことに、工場は製造工程からエネルギーを回収し、加熱需要の大部分をまかなうことができます。それに場合によっては、化石燃料を燃焼するボイラーを完全に廃止することもできるんです」と同氏は言葉を続けます。
ヒートポンプによってその周辺の温度(水温や廃棄物処理熱)が低温から高温レベルに上昇します。地域暖房であれ製造プラントであれ、ヒートポンプは化石燃料を使用する加熱・冷却システムの重要な代替手段となっています。画像提供元:GEA
その一例として、スムージーメーカーの Innocent Drinks 社が近年、オランダにカーボンニュートラルな工場(世界初の工場のひとつ)を建設する際に、GEA の革新的なヒートポンプソリューションが導入されています。「お客様全員が画期的な生産施設の設計を希望されているわけではありません。ただ、あらゆる企業がどんどん野心的な気候変動目標を設定するようになっています。そして今、そういった目標を実際に実現するためのソリューションが求められているのです」と話すオスタロス氏にとって、顧客の具体的なニーズと主な痛点を理解することが、ソリューションを成功に導く鍵になるとのこと。「いつもお客様に尋ねるんです。何がお客様に本当の価値をもたらすのか、そしてお客様の目標達成を当社がどのようにお手伝いできるのかを」と同氏。
同時に、GEA の広範で学際的な視点を通じて、お客様が新たな可能性に気付くということもよくあるようです。「よりインパクトのあるチャンスをつかむためには、ルーチンワークから一歩踏み出して、これまでよりも広い視点で物事を捉えることが大切です。GEA には幅広いポートフォリオという独自の強みがあります。可能な限り早い段階で、社員のさまざまな能力を結集することにより、これまで想像もできなかったような、総合的かつ画期的なソリューションを提供することができるのです」と締めくくっています。
「工場は製造工程からエネルギーを回収し、加熱需要の大部分をまかなうことができます。それに場合によっては、化石燃料を燃焼するボイラーを完全に廃止することもできるんです」
- GEA 加熱・冷凍技術部門シニアディレクター、イザベル・オスタロス
Isabel Osterroth
Senior Director, GEA Heating & Refrigeration Technologies, GEA
クリスチャン・ベッカー氏は、GEA の分離・フロー技術部門のプロダクトマネージャーとして、乳製品加工業界向けの効率的なソリューションに取り組んでいます。食品技術工学の学位を取得し、GEA に20年以上勤務するベッカーは、今日の酪農業界が直面するユニークな課題とチャンスに惹かれています。「酪農は伝統的に知名度が低く、保守的なセクターですが、食料安全保障と気候変動という現代における2つの大きな問題で担っている役割のために、今日では非常に注目されています。「そのため、酪農は直面する厳しい逆風を乗り切るために変化を余儀なくされているのです」と現状について説明する同氏。
実際、酪農家へのプレッシャーや消費者の習慣の変化から、乳製品加工会社まで、酪農バリューチェーン全体が影響を受けています。乳製品加工会社は、エネルギーコストと水の経費上昇だけでなく、乳製品の二酸化炭素排出量を削減するために持続可能な技術への投資を求める規制にも直面しています。「加工面においては、当社のセパレーターや噴霧乾燥機、エバポレーターなど、エネルギー需要の高い主要酪農機器のエネルギー効率は改善し続けています。また、従来の冷却方法と比較して水冷の消費量を99.9%削減するセパレーターソリューションも開発し、セパレーター1台当たりにつき年間130万リットル以上の水を節約することにも成功しました」と語ります。
また、GEA はプロセス設計だけでなく、機械の運転方法も最適化していると指摘します。これには、お客様が未開発の効用ポテンシャルを特定・活用できるように支援するデジタル製品や、お客様が製品そのものを所有するのではなく、サービスに対価を支払うという新しいビジネスモデルも含まれています。さらに、GEA では同じ遠心分離機技術の一部を活用し、企業がニューフードにおけるビジネスチャンスをつかめるよう手助けも行っています。「お客様がカスタマイズされた製造方法が不可欠な代替乳製品によってもたらされる成長ダイナミクスを利用できるようにしています。つまり、当社のソリューションが乳製品のフットプリントを削減するための手助けになっているのです」と同氏は総括しています。
「従来の冷却方法と比較して水冷の消費量を99.9%削減するセパレーターソリューションも開発し、セパレーター1台当たりにつき年間130万リットル以上の水を節約することにも成功しました」
- GEA 分離・フロー技術部門プロダクトマネージャー、クリスチャン・ベッカー
Christian Becker
Product Manager, Separation & Flow Technologies, GEA
ニューフードソリューションの発展を後押ししているのは、GEA の液体・粉末技術部門でバイオリアクタのプロダクトマネージャーを務めるダニエル・グレノフ氏です。機械工学の学位だけではなく持続可能なビジネス・商学の学位も取得しており、より持続可能な食品システムの構築に尽力しているグレノフ氏。現在はプラントベースから細胞培養由来のものまで、さまざまな代替タンパク質の普及に努めています。「意図するところは、土地利用と食品生産の切り離しです。精密発酵と細胞食品生産はどちらもそれを実現するための手段を提供してくれるので、食品システムに革命を起こす可能性があります」と同氏。
ニューフードは GEA が「新旧」の架け橋となり、食品加工における数十年の経験を活かして、代替タンパク質というエキサイティングな新分野で企業が飛躍的な進歩を遂げるのを支援しているという一例にすぎません。「例えば、精密発酵によって乳タンパク質を生産する場合、培地の調製から滅菌、分離、均質化、ろ過、噴霧乾燥に至るまで、最終製品である乳清の完全性を維持する必要があります。これらはすべて、GEA が最初から最後まで設備と専門知識を提供できる分野です」と説明します。
ニューフードへの期待が高まる一方で、グレノフ氏は重要な課題も指摘しています。「細胞培養と発酵の両方が実現する土地の利用を大幅に削減しても、インプットに関しては、可能な限りゼロ消費に近づけたいと考えています。グリーンな代替品としての可能性を実現するためには、エネルギーと水の使用を最小限に抑えることが重要です」とのこと。もちろん、GEA のエンジニアたちはここでも解決策を見出しているのです。「現在は水とエネルギーを回収するための循環型ループの構築に取り組んでおり、お客様からもこうした取り組みに大きな反響をいただいています」と、同氏もポジティブなフィードバックを報告しています。
「意図するところは、土地利用と食品生産の切り離しです。精密発酵と細胞食品生産はどちらもそれを実現するための手段を提供してくれるので、食品システムに革命を起こす可能性があります」
- GEA 液体・粉末技術部門、バイオリアクタ・プロダクトマネージャー、ダニエル・グレノフ
Daniel Grenov
Product Manager for Bioreactors, Liquid & Powder Technologies, GEA
ニューフード技術に関するグレノフ氏の研究、乳製品加工技術に関するベッカー氏の専門知識、加熱・冷却技術の活用に重点を置くオスタロス氏、炭素回収に関するオルトロフ氏の取り組みは、持続可能性の目標に向けてお客様が確実に前進できるようにするために GEA 全体で行われているイノベーションと協力体制の例を示した典型的な例です。これは多面的なアプローチであり、すでに印象的な統計を生み出しています。2022年には、GEA のヒートポンプ、コンプレッサ、熱回収システムのポートフォリオだけで、約70万トンにおよぶCO2相当量の排出回避に役立っています。これは世界中で約14万6000人が1年間に排出する量に相当します。
「GEA では、エンジニアリングのノウハウをより環境に優しい未来のためのソリューションに集中的につぎ込んでいます。イノベーションと持続可能性は GEA の全従業員の責任です。当社の将来だけでなく、地球の将来に関わるんですから」と話すのはベッカー氏。また、オルトロフ氏は「私たちだけで気候変動に対処することはできません。将来の世代のために、全員が一丸となって取り組む必要があります。現在経験しているネガティブなトレンドを覆す責任があるのですから」と、いずれも全体的な意識改革を呼びかけています。